午後から激しさを増した雪が、道路を真っ白に染めていた。
隣の店のチラシが風に舞ってその雪の上に叩きつけられる。
窓は曇って外の世界をぼんやりと映し出していた。
私はもうとっくに冷え切ったコーヒーを一気に飲み干してPCに向かった。
あと少し。
この仕事を片付けたら。
今日はあなたに会える。
久しぶりのデート。
心がほんわかとあたたまる。
キーボードを叩く指も軽快。
もう2週間会えていない。
最近ではメールもあまりできないくらい忙しくて。
疲れていたの。
朝も起きられないくらいに。
でもね、今日会おうって言われて。
私本当に嬉しかった。
疲れなんかね、一気に吹き飛んじゃう。
それなのに。
急に頼まれた仕事。
片付かない机の上。
時計の針の動きが心を突き刺すようだ。
雪は静かに降り積もり、街をすっかり覆っていた。
ようやく終わらせたころにはとっくに街は夜の顔をして。
私は泣きたくなった。
携帯には彼からのメールが。
「どうしたの?」
「今日は無理かな?」
「連絡まってるよ。」
イライラとした気持ちで車のドアを思い切り閉めた。
「もう!!」
お気に入りのコートの裾がドアに挟まって私は思い切り叫んだ。
今年買ったお気に入りの白いコート。
道は雪で覆われて、私は絶望的な気持ちになった。
かじかむ指。
タバコに火をつけて、一口思い切り吸い込んで吐き出した。
そうしたらね、急に涙が出てきたんだ。
私は何をしにいくの?
これから。
会いにいってどうなるの?
雪はどんどんと降り積もり、フロントガラスを覆いつくした。
真っ暗な車内には、あなたとよく聞いたMDがあの日と同じメロディーを奏でる。
疲れた体と心が一気に私の頭を真っ白にしてしまった。
そう、あなたと出会ったのも去年のこんな白い冬。
何もなくて、ただ気持ちだけでここまできた。
とちらかの気持ちがそのうちに冷めるまで。
私は期限付きの恋愛をするつもりだった。
なのに、笑ってしまうじゃない。
また冬がきた。
白く、冷たい、綺麗な冬が。
これまでね、泣いたことなんて無い。
あなたと出会って楽しかったから。
だけど、私は今初めて泣いている。
あとからあとからこぼれる涙を拭くこともせずにね。
今あなたは待っているの?
私に会いたくて待っていてくれてるの?
どんな気持ちでいるの?
私がいなくなったらあなたは泣いてくれる?
泣くわけないよね・・・
あなたはそんな人じゃない。
ここらで終わりにしないと。
苦しくなる。
きっといつか。
出会えたことさえ後悔する日がくる。
今ならまだ、あなたと出会えて偽物の恋愛を楽しんで。
偽物の愛の言葉を囁きあって。
でもね、つないだ手はあたたかかった。
キスした唇は本物だった。
私の気持ちも。
汚れたコートは今の私にはちょうどいい。
私は携帯の電源を切って、座席を倒した。
ごろんと寝転ぶ。
涙はいつのまにか止まって涙の伝った後だけがのこる。
すこし笑った。
このまま携帯を空になげようか。
それとも私が消えてしまおうか。
もうあなたの街にはいかない。
気持ちがリアルになるまえに。
この恋がリアルになるまえに。
きっとあなたも待っていたんでしょう。
私がさよならを言うこと。
怖かったんだよね。
私たち。
このまま進むことも。
お互いを失うことも。
あなたは勇気がないから。
本当に情けない人。
それでも大好きだった。
スピーカーからは幸せな愛の歌。
私は大きく息を吐く。
ワイパーを動かしてフロンの雪をどかすと、そらから小さな天使がたくさん舞い降りてきた。
それは温まった車に触れてすぐに消えた。
駐車場の街灯が小さく点滅をしてる。
これもまた消えてしまいそうだね・・・
私たちの心に灯る恋の灯もまた同じ。
あなたは勇気がないから、私が引き金をひいてあげる。
こんな夜がちょうどいいじゃない。
ぎゅっと目を閉じた。
涙が溢れ出さないように。
胸の中からこみ上げる何かが、喉と鼻をつたって今にも溢れてしまいそう。
また泣いたらほんとに悲しくなるじゃない。
私たちは出会えてよかった。
お互いに大切に思うことができた。
ただそれはあなたの一番大切なもの傷つけているんだよ。
早くそれに気づいてあげて。
私は思い切り起き上がると、座席をもどし、ハンドルに手をかけて小さな声でつぶやいた。
・・・ごめんなさい。
それはあなたに向けてではない。
同じあなたを思う人へ。
ハンドルに頭をつけてそっと目を開けると、不思議ともう涙はでない。
私はアクセルを踏んで走り出す。
これからは自分の人生を生きていこう。
そしてもう誰かを傷つけることのないように。
自分の道を走ろう。
誰かにしかれたレールじゃなくて。
自分の未来を見つめよう。
雪は激しさを増すけれど、時々前が見えなくなるけれど、そんなときはゆっくり行けばいいね。
誰かを傷つけるのは、自分が傷つくのより痛いんだ・・・
「さよなら」
その言葉を言わずに逃げる私を許してね。
もうあなたの街には行かない。
電話にもでない。
こんなさよならしかできない私を許してね。
遠い街で、あなたも幸せになれますように。
私を思い出すこともなくなって。
切ない気持ちも、思いもぜんぶ雪に溶けて消えますように。
車は雪にも負けず調子よく走り、
私は・・・
- From:きらら
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- Date:2006/03/16 14:53
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